海外駐在員事務所トレーニー制度を通してインドに可能性を感じ、希望どおりニューデリー駐在員事務所に配属された黒木壮太。現場を視察して案件の意義や課題に対する解像度を高めつつ、現地政府・企業と膝詰めで意見交換できることこそ、海外駐在員としての仕事の醍醐味だといいます。「インド政府と日本企業の橋渡し」という役割を果たすために実施した工業団地の視察ツアーや、事務所メンバーとの関係性などを聞きました。
若手総合職が海外駐在員事務所に約3か月間派遣される研修制度「海外駐在員事務所トレーニー派遣」で、私はニューデリー事務所での勤務を経験しました。官民やセクターを問わず多様な顧客と面談を行い、インド各地に出張する中で、同国における事業機会の大きさやJBICへの期待の高さを実感。「より長期間にわたり現地に駐在したい」と考えるようになりました。
入行3年目でその希望が叶い、ニューデリー駐在員事務所に配属。顧客との面談やリサーチを通じた案件形成支援、本店からの出張者のサポート、事務所運営業務など多岐にわたる仕事に携わっています。月に2回ほどインド各地への出張にも行きます。管轄国内を飛び回り、プロジェクト現場の視察を通じて案件の意義や課題に対する解像度を高めつつ、現地政府・企業の関係者と膝詰めで意見交換を行うのは、まさに海外駐在員としての仕事の醍醐味だと思います。
また、海外で生活することで、皮肉にも現地の社会課題に対する理解が深まる側面もあります。私の場合はデリーで深刻な大気汚染に触れる中で、排煙脱硝装置や省エネルギー車の普及といった環境対策の必要性を強く感じるようになりました。
JBICはインド政府とともに、インド産業回廊開発公社(以下、NICDC)に出資しています。取締役を派遣して同社の経営に関与するとともに、工業団地への入居に関心を有する日本企業とNICDCの間をつなぐファシリテーターの役割も担っています。NICDCが開発を進める工業団地の中でも、特にインド政府が重要視しているのが、西インド・グジャラート州に所在するドレラ工業団地です。インド政府はここに半導体産業のエコシステムを築くことを計画しており、交通網や水・電気など様々なインフラ整備を進めています。
このドレラ工業団地への進出に関心を持つ日本の半導体関連企業を対象として、私は「ドレラ工業団地視察ツアー」をNICDCと協力してアレンジ。ツアーに参加された日本企業の方々から、「インドはインフラ整備が進んでいないイメージがあり、本当に半導体を製造できるのか懐疑的だった。しかし、実際に現場を目にし、政府関係者の強いコミットメントを確認したことで、半導体産業の集積地としてのグジャラート州のポテンシャルについて認識を新たにした」というお声をいただくことができました。
JBICが主に行っている出融資業務とは少し毛色が異なりますが、これもJBICが期待されている「インド政府と日本企業の橋渡し」という役割の一環です。具体的な成果につながるまでは時間を要するかもしれませんが、微力ながらも日本企業のインド進出を後押しする仕事に携われていることにやりがいを感じています。
ニューデリー駐在員事務所は総勢10名以上から構成される、JBICの中でも最大規模の海外駐在員事務所の一つです。日本人とインド人が概ね半数ずつ在籍しており、フラットな議論を英語で活発に交わしています。地政学やファイナンスの専門家などタレントも豊富で、彼らとの議論を通じて学ぶことは多いです。また、スタッフの親族の結婚式があると、事務所メンバーの皆で華々しい衣装を着てお祝いに行くなど、業務外での親交も深く和気あいあいとした雰囲気です。
休日はヨガやインド料理のレッスンに参加するなど、現地の文化を積極的に体験。連休が取れたときは、チベット仏教寺院がある北インド、砂漠でキャンプができる西インド、伝統芸能やスパイス農園を誇る南インドと、縦横無尽にインド各地を旅しています。同国には28の州と8つの連邦直轄領があり、「インド」というひと言では括りきれないほど多様な風土と文化があります。在任期間中に、一つでも多くの地域を訪れたいと思っています。
こうした海外生活に役立っているのが、JBICの充実した語学研修制度です。海外勤務者に対しては制度内容が一層拡大されるので、私は赴任前に改めて英会話レッスンを受講しました。今後は現地語(ヒンディー語)の勉強にも取り組み、「インドを中心とする南アジアを舞台に、日本の力でエネルギー分野のフロンティアに挑戦したい」という夢の実現に活かそうと考えています。