日本のコンビニ大手7&i HDの、米国における事業拡大を支援

Speedwayブランドの米国コンビニエンスストア事業等の買収資金を融資

OUTLINE

コンビニ事業などで知られる日本企業7&i HDの米国連結子会社であるSEIは、主にSpeedwayブランドにて運営するコンビニ事業及び燃料小売事業を運営する複数の会社の買収を計画していました。こうした中、JBICは2021年11月、7&i HDとの間で、本買収に必要な資金の一部を融資する貸付契約を締結しました。JBICとして実績の少ない小売分野であり、米連邦取引委員会の異議声明発出など異例の事態にも見舞われた本件。契約調印までの道のりについて、担当した職員たちに聞きました。

PERSON

総合職
江原 勇輔(2018年入行)
産業ファイナンス部門
産業投資・貿易部 第1ユニット
係員
総合職
加藤 元気(2004年入行)
産業ファイナンス部門
産業投資・貿易部 第1ユニット
ユニット長

PROJECT OUTLINE

JBICは2021年11月、株式会社セブン&アイ・ホールディングス(以下、7&i HD)との間で、融資金額2,600百万米ドル(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結した。本融資は、株式会社三井住友銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社みずほ銀行、株式会社りそな銀行及び三井住友信託銀行株式会社との協調融資により実施。7&i HDが、米国連結子会社である7-Eleven, Inc.(以下、SEI)を通じて、主にSpeedwayブランドにて運営するコンビニエンスストア(以下、コンビニ)事業及び燃料小売事業の運営会社の株式などを取得(以下、本買収)するのに必要な資金(買収総額:210億米ドル)の一部を融資するものである。本件は、7&i HDの海外事業展開を支援するものであり、日本企業による海外でのM&Aに必要な長期外貨資金を供給することで、日本企業の海外における事業拡大や新たな事業展開を支援し、日本の産業の国際競争力の維持及び向上に貢献するものである。

FTCの異議声明発出という
不測の事態に速やかに対応

7&i HDは、グループ成長戦略の一つとして海外コンビニ事業の強化を掲げており、米国連結子会社であるSEIは、石油精製会社である米国法人Marathon Petroleum Corporationが主にSpeedwayブランドにて運営するコンビニ事業及び燃料小売事業を運営する複数の会社の買収を決定。2020年10月、JBICは7&i HDから買収資金の支援に関する要請を受けた。

「7&i HDはグループ重点戦略として、コンビニ事業戦略、食品強化・首都圏食品戦略、大型商業拠点戦略及び DX・金融戦略を掲げており、特に堅調な経済成長が見込まれる北米コンビニ市場での事業拡大をグループ全体の重要な成長ドライバーと位置付けています。今後、日米に加えてアジアなど他の地域でも、ライセンシーとの連携強化、ジョイントベンチャーやM&Aなどの資本提携を積極的に展開する方針であり、本買収はこうした7&i HDのグローバル方針を象徴するプロジェクトです」(係員 江原)

契約交渉を重ねながら順調に進んでいた本件だが、行内決裁を得る経営会議の直前で、米連邦取引委員会(以下、FTC)より本買収に対する異議声明が公表されるという不測の事態に見舞われた。

「一部のガソリン販売店を売却することでFTCの言及する競争上の懸念を全て解消する和解契約を締結していただけに、7&i HDとしても異議声明は寝耳に水。JBICとしても過去に経験したことのない事案でした。7&i HDとFTCの交渉が続く中、JBICは政策金融機関として注視する必要がありました。そこで、米国法に詳しい外部弁護士を雇用し、米国の独占禁止法や許認可取得制度について理解を深めました」(係員 江原)

「以前に金融法務課に所属していた江原君は、弁護士の選定や行内の承認を得るための手続きなどに精通しており、速やかに体制を整えることができました。また、法務知識を活かしながら、弁護士に対して何が起きているのか、何をしてほしいのかを的確に伝え、7&i HDとFTC両者の対応次第でその後どのような事態が生じうるのかをロジカルに整理してくれました」(ユニット長 加藤)

小売業界や7&i HDの戦略への
理解を深めて経営陣に説明

2021年11月、7&i HDの真摯な交渉が実を結び、FTCから同意命令案が発出された。それに伴い、経営会議に向けて経営陣の承諾を得るための準備が始まった。しかし、JBICは製造業などの支援実績は豊富だが、小売分野に関する知見は限られている。経営陣に本件の意義や将来性を正しく評価してもらうためには、コンビニ業界の知識を深め、業界内での7&i HDの立ち位置、競争力の源泉、競合他社との違い、買収後の事業戦略などを明らかにする必要があった。

「コロナ禍の影響で出張に行くことができず現地をイメージしにくい中、デスクトップ調査を中心に業界知識を深めなければなりませんでした。そこで、コンサルタントなどの専門家から助言をいただきつつ、主に業界分析を行う担当者も配置しました」(ユニット長 加藤)

「米国のコンビニに並んでいる商品はスナック菓子やドリンクが中心で、日本でお馴染みのおにぎりや肉まんなどフレッシュフードは限られています。こうした中、7&i HDの考えている戦略の一つは、日本で培ったノウハウを駆使し、利益率の高いフレッシュフードやプライベートブランド製品を増やすことでした」(係員 江原)

「こうした商品は競争力の源泉と言えますが、業界内での優位性が製造業などと比べて分かりにくいものです。他にも7&i HDの戦略を文面のみで説明するのが容易ではありませんでした。そこで、経営陣への説明時に写真やグラフを用いた資料を使用し、聞き手がイメージしやすくなる工夫をしました。写真を用いることで効率的に理解を促せた反面、グラフなどにはその背景を含め予想外のご指摘をいただくなど反省点もあり、案件担当の責任者としても多くの気付きを得ました」(ユニット長 加藤)

ガソリンスタンド買収を
支援する妥当性を検討

米国のコンビニの事業モデルは日本と異なり、大半が郊外型かつガソリンスタンド併設型である。本件の融資対象にも、燃料小売事業の運営会社の買収資金が含まれている。脱炭素化が推進されている中、ガソリンスタンド買収案件を支援する妥当性についても経営会議で丁寧な説明が求められた。

「脱炭素化が進んでいく中で、今後もガソリンが売れるのかという企業審査面、また環境社会配慮面においても本当にJBICが支援すべき案件なのかを検討する必要がありました。企業審査面については、米国の政府機関などがガソリン販売の将来予測を発表しており、2050年頃まで供給量はほぼ横ばいと見られています。我々としても、専門家とともにその数値が妥当かどうかを検討しました。また、環境社会配慮面では、ESG※の取組みや米国で進めているEVスタンド設置などについて7&i HDにヒアリングを行うなど、説明に必要な情報をチームで積み上げていきました」(ユニット長 加藤)

こうして様々なイシューを乗り越え、2021年11月に融資契約締結に至った。

「内談受付から1年超の長期案件だったため、長期間でしっかりとスケジュール管理を行うことの大切さを学べました。また、FTCからの異議声明という不測の事態が発生した際も、迅速に上司への報告・相談を行うことで速やかに外部弁護士と連携できたことは自信につながりました」(係員 江原)

「本件では、小売分野の大型案件に携わることで新たなセクターにおける知見を得ました。米国に加え、日本国内におけるEVスタンドの普及状況や将来性などについて業界大手の企業にヒアリングするなど、ESGの潮流を踏まえたサステナビリティ関連の考え方を学べたこと、またFTCに関する知見を深められたことも今後に向けた財産になりました」(ユニット長 加藤)

※ ESG:環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取って作られた言葉。

PROJECT FLOW

買収決定

2020年8月、7&i HDが本買収を決定。

内談受付

2020年10月、7&i HDがJBICに対して買収資金の支援を要請。

事前審議

2020年12月、経営会議において本件の事前審議を実施。JBICとして案件を進める方針を決定。

異議声明

2021年5月、FTCが本買収に対する異議声明を公表。

買収完了

2021年11月、FTCが本買収に対して同意命令案を発出。それを受けて7&i HDが買収を実行。

行内決裁・調印

2021年11月、経営会議、取締役会にて行内決裁。7&i HDとの間で融資契約を締結。

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