アジアで開発が加速する洋上風力発電への日本企業の事業参画を支援

台湾Hai Long洋上風力発電事業に対するプロジェクトファイナンス

OUTLINE

再生可能エネルギーの中でも注目される洋上風力発電。これまで欧州を中心に開発が進められ、近年はアジアでも開発が加速しています。JBICは2023年9月、三井物産等が出資する台湾法人Hai Long 2 Offshore Wind Power Co., Ltd.及びHai Long 3 Offshore Wind Power Co., Ltd.との間で、台湾における洋上風力発電事業を対象として、融資金額約1,012億円を限度とするプロジェクトファイナンス※による貸付契約及び約47億台湾ドルの保証契約を締結しました。JBICにとってアジアにおける初の洋上風力発電事業に対する支援となった本件。イレギュラーな要素も含まれ、契約締結までには入念な協議と調整が必要でした。その道のりや本件の意義を、担当した職員に聞きました。

PERSON

総合職
田村 昌之(2019年入行)
インフラ・環境ファイナンス部門
電力・新エネルギー第1部 第3ユニット
副調査役

PROJECT OUTLINE

日本政府は「インフラシステム海外展開戦略2025」において、質の高いエネルギー・電力インフラに対する金融支援を実施する方針を掲げている。また台湾は、2050年までに電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を60~70%に引き上げる方針を掲げている。こうした中、JBICは2023年9月、三井物産株式会社(以下、三井物産)及びカナダ法人Northland Power Inc.等が出資する台湾法人Hai Long 2 Offshore Wind Power Co., Ltd.及びHai Long 3 Offshore Wind Power Co., Ltd.(以下、Hai Long)との間で、台湾における洋上風力発電事業を対象として、融資金額約1,012億円を限度とするPFによる貸付契約を締結した。本融資は、民間金融機関等との協調融資により実施するもので、JBICは、民間金融機関が実施する台湾ドル建てオンショア・ローンに対し、約47億台湾ドルの保証も供与する。なお、JBICは同年10月に三井物産と共同でオランダ王国法人MIT Wind Power B.V.に約88億台湾ドルを出資するための株主間契約を締結。建設期間中には出資先が台湾地場金融機関から調達するエクイティブリッジローンの一部に対するオンショア・ローン保証も供与する(約84億台湾ドル)。本件はJBICにとってアジアにおける初の洋上風力発電事業に対する支援となる。本件は、日本企業が出資者として事業参画し、長期にわたり運営・管理に携わる海外インフラ事業を金融面から支援することで、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献するものである。

アジアでの初の支援に向け
建設リスク等を入念に精査

脱炭素への取組みが世界で進む中、近年はアジアでも洋上風力発電の開発が加速している。中でも開発が盛んな地域が台湾だ。台湾は2050年までに電力供給に占める再生可能エネルギーの割合を60~70%に引き上げる方針を掲げ、エネルギー移行政策を進めていることが背景にある。

本件は、三井物産等が出資する台湾の会社Hai Longが、台湾で洋上風力発電所の建設、運営、売電を行うプロジェクトに対し、融資を行うものである。JBICにとってアジアにおける初の洋上風力発電事業に対する支援となった。

「洋上風力発電は欧州で開発が先行し、JBICでもこれまで英国やオランダ、フランスなどで、日本企業が参画する事業への支援実績があります。一方、アジアの洋上風力発電については、行内にまだ十分な知見がない状態でした。そのため本件の検討段階では、風力発電所の建設部材のアジアにおけるサプライチェーンや建設工程ごとのリスクを子細に調べ、建設リスクとその対応を技術アドバイザーや台湾当局とも協議しながら検討しました。また売電先となる国営の台湾電力との売電契約に関しても、想定されるリスクについて台湾民法にも照らして対応を検討するなど、慎重に確認を進めました」(副調査役・総合職 田村)

イレギュラーな要素が多い中
行内外と連携して業務を遂行

本件でJBICは、Hai Longへの円建て融資に加え、台湾の民間金融機関が実施する台湾ドル建て融資(オンショア・ローン)に対する保証も供与している。背景事情として、台湾では通貨規制の関係上、台湾に支店や子会社を持たないJBICをはじめとする輸出信用機関(以下、ECA)は、台湾ドル建ての融資を行うことができない。そこで、民間金融機関によるオンショア・ローンに、JBICを含む6カ国7機関のECAが保証を供与するスキームが構築された。JBICにとって本件は、インフラプロジェクト向けにオンショア・ローン保証を行う初のケースともなった。

このように日本円と現地通貨の両方が基軸となる本件のような保証メニューは、システム上で想定されていない。こうした特殊性から、行内の手続きにおいてもイレギュラーな対応が求められた。現行のシステムでは対応できない事項について、行内のシステム関連部署や外部のシステムベンダーとも打ち合わせを重ね、対応を協議。総合職と業務職、様々な関係部署、さらには行外とも連携することで、難しい手続きを進めていった。

アジアでの風力発電事業への
支援を広げる足掛かりに

事業規模が大きく、世界各国のECAや金融機関が参画する本件。約1年に及んだ協議の期間には、関係者が一堂に会する会合がシンガポールやロンドンなど開催都市を変えてほぼ毎月実施され、加えて各国をつないでのオンライン会議も毎週行われた。契約書の最終協議を経て、2023年9月に契約調印に至った。

三井物産は2030年までに保有する発電資産の30%超を再生可能エネルギーで構成する方針を掲げ、本プロジェクトを特に重要なプロジェクトに位置付けている。現在は建設工事が進行中で、2026年からの順次稼働を予定。完成後に想定される発電容量1,022メガワットは、原発1基分に相当し、台湾の一般家庭100万世帯超の需要をまかなえる計算だ。本件は、台湾の再生可能エネルギー移行政策に沿うと同時に、温室効果ガス排出量削減を通じて地球環境保全に貢献するものである。

「台湾では洋上風力発電の新たなプロジェクトが次々に立ち上がっています。今後、日本企業がそれらに参画しJBICが支援を行う場合には、本件で構築したスキームが役立つはずです。また洋上風力発電はこの先、アジア全域で開発が本格化すると考えられます。JBICが本件でアジアにおける洋上風力発電の知見を蓄積したことは、今後の案件組成につながるものだと感じています。私は今回、新規PF案件の組成を初めて担当し、融資承諾に至るまでのプロセスの一つひとつは根気のいる地道な業務の積み重ねであること、そしてそのどれもが重要であることを学びました。レンダーとしてPFを組成する際の考え方や進め方の基礎を身につけることができたと思います。アジア各国や多くの日本企業がカーボンニュートラルや脱炭素移行に注力する今、本件の経験を活かして新たなプロジェクトを支援していきたいと考えています」(副調査役・総合職 田村)

※ プロジェクトファイナンス(PF):プロジェクトに対する融資の返済原資をそのプロジェクトが生み出すキャッシュフローに限定する融資スキームのこと。

PROJECT FLOW

日本企業参画

2018年8月、三井物産が本プロジェクトへの参画を決定。

関係者と直接協議

2022年10月、関係者が一堂に会する初の全体会合をシンガポールで開催。以降、約1か月に1度、開催都市や議題を変えて継続実施。

台湾当局と面談

2022年11月、台湾当局とJBICが台北で意見交換を実施。

契約書類の協議が本格化

2022年12月以降、契約書ドラフトのレビューや財務モデルの確認を進める。

台湾当局と2度目の面談

2023年4月、台湾当局とJBICが台北で2度目の意見交換を実施。

融資契約調印

2023年9月、Hai Longとの間で融資契約調印。

案件管理

プロジェクトの進捗のモニタリング、貸出の管理、関係者との情報共有などを継続中。

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