経済成長が著しく、巨大な市場を有することから、多くの日本企業が生産拠点の移転先や新たな投資先として注目しているインド。JBICは2023年8月、インド籍の日印ファンド(India-Japan Fund)に関する出資契約書を締結しました。インドにおける環境保全分野に加え、日本企業と協業可能性があるインド企業又はプロジェクトを投資対象とする本ファンドは、日本企業の国際競争力の維持及び向上に貢献することが期待されています。また、本ファンドの運営面ではJBIC IGが関与しています。JBIC初のインド籍信託型ファンドの立ち上げ及び出資であり、JBIC IGとも議論しつつ多くの課題を乗り越えた末に実現した本件。その意義や調印までの道のりについて、担当する職員に話を聞きました。
JBICは2023年8月、インド籍の日印ファンド※1に関する出資契約書を締結した。ファンド総額は490億インドルピーであり、インド政府による240億インドルピーの出資コミットとともに、JBICは250億インドルピーの出資コミットを行った。本ファンドは、インドの政府系ファンド管理会社であるNational Investment and Infrastructure Fund Limited(以下、NIIFL)が組成・運営するファンドであり、運営面ではJBICと株式会社経営共創基盤との合弁会社である株式会社JBIC IG Partners(以下、JBIC IG)と連携する。インドにおける再生可能エネルギー事業、電気自動車関連事業、廃棄物処理事業及び水処理事業等の環境保全分野に加え、日本企業と協業可能性があるインド企業又はプロジェクトも投資対象としており、JBIC IGの知見も活用して日本企業とインド企業の協業を促進することを目的としている。JBICとNIIFLは、2022年11月にインドの環境保全及び経済成長の促進並びに日本企業とインド企業の協業促進を目的とした覚書を締結している。本件は同覚書に基づき取り組むものであり、日印クリーンエナジーパートナーシップ等の日印政府間合意に合致するものである。
インド政府は、2021年11月開催のCOP26※2において「2070年カーボンニュートラル※3」を宣言し、再生可能エネルギーの導入や電気自動車の普及促進などの気候変動対応を推進している。また、2014年に公表した「クリーン・インディア」政策に加え、「スマートシティ・ミッション」や廃棄物発電事業への補助金制度を通じ、廃棄物処理や水処理といった国内の衛生問題の改善に継続的に取り組んでいる。こうした中、インドの政府系ファンド管理会社NIIFLから「共同でファンドを立ち上げたい」という相談がJBICに持ちかけられ、検討が始まった。
ファンドコンセプトは比較的早期に決まった。インドでは『自立したインド』政策の下、エネルギーの輸入依存からの脱却を推進している。2021年には『2070年カーボンニュートラル』を宣言し、気候変動対応も推進している。こうした動きはJBICの中期経営計画とも合致するため、インドにおける再生可能エネルギー事業、電気自動車関連事業、廃棄物処理事業及び水処理事業などの環境保全分野を投資対象とした。
一方、不安定な世界情勢を受けてサプライチェーンの分断に直面している多くの日本企業が、生産拠点の移転先や新たな投資先として近年経済成長が著しく、巨大な市場を有するインドに注目している。しかし、複雑な法制度や独特な商慣習の影響もあり、日本企業は思うようにインド市場に進出できていない。こうした中、日本企業と現地パートナー企業とのマッチングの必要性が増してきている。そこで、JBIC IGの知見も活用して日本企業とインド企業の協業を促進するため、日本企業と協業可能性があるインド企業又はプロジェクトも投資対象とした。
「本件は、CO2排出量世界第3位であるインドにおいて温室効果ガス排出削減などの環境保全に貢献するとともに、日本企業のインドへの事業進出をサポートすることにもつながります。加えて、日印政府が二国間のさらなる協力関係の構築を目指す中で、490億インドルピーもの資金を拠出して両国の具体的な協業を支援する大規模プロジェクトとしても注目されており、非常に意義高い案件といえます」(係員 勝又)
インド国内でのファンド設立及び出資はJBICにとって初めての経験であり、インドの法務・税務を踏まえたファンドのストラクチャリングやドキュメンテーションに加え、インドとの資金授受や会計処理などの行内フローに関しても検討を重ねていった。そして主要条件などの骨子が固まってきた2022年11月、インドの環境保全及び経済成長の促進並びに日本企業とインド企業の協業促進を目的とした覚書(以下、MOU)を締結するに至った。
MOU締結後、JBIC IGのメンバーとも協議して各種調査を実施しつつ出資契約書の詳細を固め、ファンドストラクチャーや主要条件を確定させていった。現地出張を通じてNIIFLとも度重なる契約交渉を実施。お互いに譲れないポイントがありながらも、限られた時間で妥結していかなくてはならない。こうした場面で徹底的に議論に応じるNIIFLとの間に、いつしか同じ目標に向かうパートナーとしての信頼関係が生まれていった。また、NIIFLの協力で現地企業にヒアリングする機会を得て、投資対象となるマーケットへの理解も深めていった。
「私はインドにおける環境保全分野及び日本企業が関与するプロジェクトの市場調査や、NIIFLの環境社会配慮体制についてのデューディリジェンス(以下、DD※4)を担当しました。途中からチームに加入したこともあり、私のキャッチアップが及ばないこともある中で、先輩方に様々な場面でフォローしてもらいながら業務を進めました」(係員 勝又)
2023年6月の行内決裁を経て、同年8月にインドで調印式が行われた。調印式やその後の会食では、NIIFLとお互いの苦労を語り合い、喜びを分かち合った。JBIC IGのメンバーとも議論を重ねながら、コンセプト作りを含めゼロからファンドを立ち上げた本件。日印関係強化の観点からも政策的意義が高い日印ファンドによる投資は、これから本格化していく。
「本件はJBIC初のインド籍信託型ファンドの立ち上げ及び出資ということもあり、行内の関係部署と複雑な調整を重ねる必要がありました。その中で、相手の立場に立って話し、周囲の協力を得ていく大切さを学びました。今後は、日印ファンドから日本企業が関与する案件への投資が実施されるようJBIC IGと密に連携しつつ日々の業務に取り組みたいと考えています。また、将来的には、本ファンドのように社会的意義の高い案件により主体的に携わりたいです」(係員 勝又)
※1 ファンド:投資家から集めた資金を用いて投資を行い、そのリターンを分配する仕組み。
※2 COP26(Conference of the Parties):2020年秋にグラスゴーで開かれた第26回気候変動枠組条約締約国会議。
※3 カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとすること。
※4 デューディリジェンス(DD):ビジネスモデルや財務状況、法務リスクなどの調査。
※5 地球環境保全業務(通称「GREEN」):高度な環境技術を活用した太陽光発電などの高い地球環境保全効果を有する案件に対して、民間資金の動員を図りつつ、融資・保証・出資及び投資を通じた支援を行う業務。
2022年3月以降、NIIFLとJBICにおける協業のあり方に係る意見交換、日印ファンドのファンドコンセプトに係る協議を実施。
2022年5月以降、インドにおける投資マーケット調査、ファンドストラクチャーの検討、主要条件に係る協議を実施。
2022年11月、インドの環境保全及び経済成長の促進並びに日本企業とインド企業の協業促進を目的とした覚書を締結。
2022年12月から翌3月にかけて、ファンドストラクチャーや主要条件を確定させ、各種行内オペレーションを構築。地球環境保全業務(通称「GREEN」)※5としての認定プロセスに加え、環境社会配慮関連のDDを実施。
2023年4月以降、ドキュメンテーションを確定させ、インド当局からの承認を取得。
2023年8月、インドで調印式を開催。インド財務大臣とJBIC林総裁による会談も実施。