「北欧」、「VCファンド設立」の二つの新機軸から日本企業を支援

北欧・バルト地域のテック系スタートアップ企業を投資対象とするファンドへの出資

OUTLINE

人口当たりの起業数が多く、世界有数のスタートアップ・ハブとして近年注目が高まる北欧・バルト地域。JBICは2019年1月、北欧・バルト地域のテック系スタートアップ企業を投資対象とするベンチャーキャピタルファンドの出資契約書に調印しました。日本企業と同地域のスタートアップ企業との事業提携機会などを促進するファンドの取組みを通じて、日本企業の国際競争力の維持及び向上に貢献することが期待されています。JBICにとって、「北欧・バルト地域」、「ベンチャーキャピタルファンド設立・運営」などの新たな領域への挑戦となった本件。その特色や意義について、担当する職員たちに話を聞きました。

PERSON

総合職
松原 建徳(2002年入行)
エクイティファイナンス部門
エクイティ・インベストメント部
第4ユニット
ユニット長
総合職
市原 遼子(2009年入行)
エクイティファイナンス部門
エクイティ・インベストメント部
第4ユニット
調査役

PROJECT OUTLINE

フィンランドのスタートアップカンファレンスにおける講演の模様

JBICは2019年1月、「海外展開支援出資ファシリティ」の一環として、ベンチャーキャピタルファンド「JB Nordic Fund I SCSp(通称NordicNinja)」に関する出資契約書に調印した。本ファンドは、北欧・バルト地域のテック系スタートアップ企業を投資対象として、JBICと経営共創基盤(以下、IGPI)との合弁会社である株式会社JBIC IG Partners (以下、JBIC IG)が、バルト地域のファンドマネージャーであるBaltCapと共同で設立・運営するもの。JBICの他、オムロン株式会社、パナソニック株式会社、本田技研工業株式会社が出資する。総額1億ユーロ規模で運営を開始し、JBICは最大4千万ユーロの出資コミットを行っている。本ファンドは、日本企業を戦略投資家として北欧・バルト地域のテック系スタートアップ企業向け投資を実施し、投資家である日本企業と同地域のスタートアップ企業との事業提携機会や日本企業によるスタートアップ企業への投資機会を提供し、日本企業を戦略面で支援する。

JBICにとって“初めて尽くし”の
新領域におけるプロジェクト

JBICでは現在、中期経営計画の重点取組課題の一つに「成長分野・新領域」を据え、IoTやAIなどの技術革新を取り込んだ新たな産業の支援に向けた取組みを強化している。その一環として2019年1月、北欧・バルト地域のテック系スタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルファンド「JB Nordic Fund I(通称NordicNinja)」への出資契約を結んだ。本ファンドは、日本企業と同地域のスタートアップ企業との協業機会の創出を目的に、JBIC IGが現地の有力ファンドマネージャーと共同で設立・運営するもの。JBICは本件において、JBIC IGと連携しながら、ファンドの全体構想の設計から、立ち上げ準備、関係各社との交渉などの各プロセスに携わってきた。

北欧・バルト地域は人口当たりの起業数が多く、世界有数のスタートアップ・ハブとして近年注目を集めている。一方、JBICはこれまで開発途上国での資源・インフラ分野への出融資事業を手がけることが多く、北欧・バルト地域は関係性が相対的に薄かった。本件はJBICにとって、「北欧・バルト地域」、「ベンチャーキャピタルファンド設立・運営」、「スタートアップ支援」など様々な新領域開拓の要素を含む、いわば“初めて尽くし”の案件となった。

「JBICの従来のファイナンスは、日本企業が海外で実施するプロジェクトを支援するものでしたが、本件はそれとは異なり、JBICグループが先に現地でファンドの設立を企画・推進し、そこへ日本企業の参画を呼びかけるという、新しい取組みです。北欧・バルト地域は世界からの注目が高まりつつある半面、日本企業の進出実績はまだ限られ、その点でも政府系機関としてJBICが先陣を切る意味は大きいと考えました」(ユニット長 松原)

パズルのように複雑な調整を重ね
現地政府との関係構築にも注力

本ファンドには、JBICの他に、大手日本企業3社も出資参画している。各社が出資金額などにおいて最終合意に至るまでの調整作業も、先例がない中で複雑さを極めた。その道のりは難解なパズルを組み立てるようなもので、しかも各ピースの規模が大きいため、一つでも欠けるとファンドそのものの計画が見直しを迫れられる恐れもあった。

「全体の状況やスケジュールも踏まえながら、意見や要望の異なる多数の関係者と調整を重ね、いかに合意へと導くかに頭を悩ませました。一方で、そうした細かな調整を経ながら少しずつゴールに近づいていける喜びもあり、なかなか味わえない経験だったと振り返って思います。これまでの仕事人生で得てきたものを総動員して考え、判断しなければならないシーンも多く、だからこそ無事に契約締結に至ったときは達成感を覚えました」(調査役 市原)

国内での調整作業と並行して、本ファンドの共同設立者であるBaltCapの本社所在国エストニアや、本ファンドのオフィスが置かれるフィンランドでは、首相や大臣クラスと面談。JBICがファンドを立ち上げる目的や意義を直接説明して理解を得るなど、日本企業にとって望ましい環境作りも進めた。

「現地政府や現地企業との協議で印象に残っているのは、彼らがもともと日本に対して親しみを持っていることに加えて、われわれJBICが日本の政府系機関であることへの信頼感が極めて高かったことです。現地の関係者と相互理解や信頼関係を深められたことはファンド設立への大きな後押しになり、その点においてもJBICが本件を手がける意義を実感しました」(ユニット長 松原)

日本企業と海外スタートアップとの
関係深化を促進する先駆的な取組み

本ファンドは2019年1月の設立以降、既にフィンランドやエストニアのテック系スタートアップ企業5社に投資を実行。通常のファンド出資であれば、JBICはファンドへの一投資家として自らの出資金が適切に使われているかを継続的にチェックしさえすればよいが、本ファンドではそれに加えて、ファンドの運営を間接的に支援・監督する責任を負っており、さらには出向者を通じて自らファンドを運営し投資決定を行うファンドマネージャーの役割も果たす。これらを通じて、他の出資企業3社への経済的なリターンを図るだけでなく、それら日本企業と現地スタートアップ各社との戦略的な提携機会の創出というプラスアルファの価値提供を目指している。

本ファンドの設立と時期を同じくして、北欧・バルト地域に関心を向ける日本企業が増え始め、現地にオフィスを開設する例も出てきている。JBICはそうした動きに一歩先んじたことになり、本件での一連の取組みを通して、現在、北欧のスタートアップに関して最も豊富な知見や人脈を有する日本の機関といえる。

「本ファンドの設立は、日本企業が今後、北欧・バルト地域とのビジネスのリレーションを深めていく上での良い起爆剤になったと感じています。世界の国々の中で、日本企業がまだ注目していないけれど大きな可能性を秘めた地域に、JBICが先に進出して日本企業を呼び込む。こうした先駆的な取組みを、北欧・バルト諸国以外の新しい地域へも広げていきたいと考えています」(ユニット長 松原)

PROJECT FLOW

JBIC IG Partners設立

2017年6月、JBICとIGPIがJBIC IG Partnersを設立。今後のファンド設立先の候補の一つに北欧・バルト地域が挙がる。

プロジェクトの組成

北欧・バルト地域のスタートアップへ投資を行うベンチャーキャピタルファンドを設立することを正式に決定。

海外パートナーと提携

ファンドを共同で設立するパートナーとして、バルト地域のファンドマネージャーであるエストニアのBaltCapとの提携が決定。

共同出資企業が決定

各社との交渉を経て、日本の大手メーカー3社がJBICとともに出資参画することが決定。

出資契約の調印、ファンドの運用開始

2019年1月、ベンチャーキャピタルファンド「JB Nordic Fund I SCSp」に関する出資契約書に調印。JBIC IG Partnersの第2号ファンドとして「NordicNinja」の通称でファンドの運用がスタート。

スタートアップイベントに参加

複数のスタートアップイベントへ参加し、現地の投資家・スタートアップへファンド運用開始をアピール。

スタートアップ企業に投資を実行

2020年1月現在までに、北欧・バルト地域の技術系スタートアップ5社へ投資を実行。

※ 北欧・バルト地域:ここでは、北欧諸国(フィンランド共和国、スウェーデン王国、デンマーク王国、ノルウェー王国、アイスランド共和国)及びバルト諸国(エストニア共和国、ラトビア共和国、リトアニア共和国)の合計8か国からなる地域としている。

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