JBICは2021年1月、パラオ共和国の国営海底ケーブル公社との間で、同社が日本企業より海底ケーブル関連設備などを購入するための資金を融資するバイヤーズ・クレジット
(輸出金融)の貸付契約を締結しました。パラオの通信インフラを強化し、さらなる経済発展や投資環境整備に貢献することが期待される本件は、日米豪の経済連携に基づく第1号案件でもあります。コロナ禍による一時中断を挟んだ融資承諾までの道のりや本件の意義について、担当した職員たちに聞きました。JBICは2021年1月、パラオ共和国(以下、パラオ)法人パラオ国営海底ケーブル公社(以下、BSCC)との間で、融資金額4百万米ドル(JBIC分)を限度とするバイヤーズ・クレジット(輸出金融)の貸付契約を締結した。本融資は、株式会社三井住友銀行との協調融資(協調融資総額8百万米ドル)であり、民間金融機関の融資部分に対し、株式会社日本貿易保険(NEXI)による保険が付される。本件は、BSCCが日本電気株式会社(以下、NEC)より海底ケーブル関連設備などを購入するための資金を融資するもの。インド太平洋地域の島嶼国であるパラオの通信インフラを強化し、通信容量の拡大、国際通信の安定性向上に寄与する。また、通信インフラの改善に伴い、パラオの投資環境が整備され、日本を含む他国からの投資促進、同国の経済発展に貢献することが期待される。本件は、日米豪による『インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関間パートナーシップ』の枠組みの下での第1号案件となった。
南太平洋のパラオでは現在、通信インフラの強化に向けて、東南アジアと米国本土を結ぶ大容量の光海底ケーブル本線の分岐点から、パラオ島までの約110kmの海底ケーブル支線を敷設するプロジェクトが進む。本件は、このプロジェクトを担うBSCCに向けて、同社がNECより海底ケーブル関連設備などを購入するための資金を融資するものだ。
「パラオは人口約1万8,000人の小さな国ですが、地政学的な要衝にあたります。本件は、日米豪の3か国がインド太平洋地域をはじめとする第三国において協調する『インド太平洋におけるインフラ投資に関する三機関間パートナーシップ』の下で取り組む第一号案件の位置付けで、それぞれの国にとって、パラオとの関係を深める重要な狙いがありました。そのため、融資承諾に向けた協議や交渉においてJBICは、輸出者であるNECを支援することを念頭に置きつつ、借入人であるBSCCや、パラオ政府、協調融資銀行に加えて、日米豪の各政府の意も汲むことが期待され、様々な思惑が重なり合う中で交渉をまとめあげていく難しさがありました」(調査役 福谷)
融資承諾に向けた検討を進めていた2020年初め、新型コロナウイルス感染症の影響が世界で拡大。主要産業が観光業であるパラオも経済状況が大きく悪化し、海底ケーブル敷設のプロジェクトそのものが中止の危機に直面する事態となった。パラオが苦境に立つ中でJBICが支援を行う意義は大きいことから、JBICは米豪とも連携しながらパラオ政府及びBSCCに働きかけ、コロナ禍の中で交渉を再開。最終的に、輸出金融の定められたルールの中でパラオ政府に可能な限り寄り添いながら、JBICがどうしてもカバーできない部分は米豪と協調することで、融資を実現することができた。リスクをコントロールするために、融資実行期間中の現在も、JBICの政策金融機関としての立場やネットワークを活かした案件のモニタリングが続いている。
JBICは本件で、公共インフラ事業に対するファイナンスであって、外国の政府向け融資に対してリスクテイク機能を強化した「特別業務」を適用。行内手続きなども通常案件とは異なる中で、副担当として書類作成や英文契約書を読み込んでのシステム入力作業などを担ったのが、業務職職員の渡邉だ。タイトなスケジュールに沿って、不備や不足なく着実に業務を進めるべく、総合職職員と密に連携しながら事務手続きにあたった。
「特別業務案件にはどのような手続きが必要となるのか、行内ルールを自分で調べたり、先輩職員に助言を仰いだりしながら、まずは手順を洗い出すところから始めました。業務職は一つの部署に比較的長く所属するからこそ、システムの活用方法や業務に関連した行内ルールについての知見を身につけることが求められます。本件を通してそうした学びが深まり、出融資担当部門の業務職としての経験値が上がりました。より早く正確な事務遂行や、総合職担当者への先んじた情報発信を今後も心掛け、チーム全体の事務効率化に貢献していきたいと思います」(業務職 渡邉)
2021年1月にパラオで行われた調印式に、JBICはリモートで参加。パラオは当時、コロナ感染者が出ていなかったため、パラオの大統領や各大臣の臨席の下、現地大使も招待し、マスクなしの対面での調印式が行われた。パラオにおける通信インフラの強靱性を高め、国際通信の安定性向上にも寄与する本件。通信インフラ改善に伴いパラオの投資環境が整備されることで、日本を含む他国からの投資促進やパラオの経済発展にもつながることが期待されている。
「米国や豪州とも協調しながら、パラオ支援という共通のゴールに向かって案件組成に取り組んだ本件は、私自身にとっても、これまでにない得がたい経験となりました。その過程で実感したのは、パラオの方々が日本に対して親しみを持ち、その日本の政府機関であるJBICにも高い信頼を寄せてくださっていることです。コロナ禍で現地出張がかなわない中でもしっかりと関係を築くことができ、パラオ政府やBSCCからも大変感謝いただきました。日米豪連携の第1号案件、そして、コロナ禍で苦境に立つパラオへの支援という点でも意義は大きく、やりがいを強く実感した案件となりました」(調査役 福谷)
2019年5月、BSCCから融資の支援要請を受け、検討を開始。
2020年3月、コロナ禍によるパラオ経済の悪化により、BSCC及びパラオ政府がプロジェクトの中断を決定。JBICも承諾に向けた検討を一時中断。
2020年6月、米豪とも連携したJBICの働きかけで、BSCC及びパラオ政府がプロジェクトを再始動。JBICも検討作業を再開。
2020年10月、ベトナムで開催されたインド太平洋ビジネスフォーラムにて、日米豪の3か国外相が本件について日米連携の下で取り組む第1号案件になる旨を発表。
2021年1月、パラオ大統領の臨席の下、現地大使も招待して、融資金額4百万米ドル(JBIC分)を限度とするバイヤーズ・クレジット(輸出金額)の融資契約の調印式をパラオで実施、JBICはリモートで参加。
※ バイヤーズ・クレジット(B/C):日本企業や日系現地法人からの機械・設備の輸入者に対して直接貸付を行うもの。