私たちの使命#4
2022年に開催されたCOP27※1で議長国を務めたエジプト。同国政府は、再生可能エネルギー由来の発電設備容量を2030年までに35%、2035年までに42%まで増強する目標を掲げています。JBICは2022年11月、日本企業が出資者として事業参画するエジプトでの陸上風力発電事業を対象として、融資金額約281百万米ドル(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンス※2による貸付契約を締結しました。入行2年目で本件を担当した岡田悠乃は、学生時代から関心を寄せるアフリカへの思いも胸に、契約交渉に尽力しました。自身を支えた使命感を振り返ります。
2022年にCOP27の議長国を務めたエジプトは、2021年時点での火力発電比率が90.1%と、火力発電への依存度が高い国です。この状況からの脱却に向け同国政府は、具体的な数値目標を掲げて再生可能エネルギーへの移行を推進しています。本件は、住友商事株式会社(以下、住友商事)などがエジプトで陸上風力発電所を建設・所有・運営し、電力をエジプト送電公社向けに売電する事業を、金融面から支援するものです。エジプト政府のエネルギー移行政策に貢献するだけでなく、日本政府のインフラシステム海外展開戦略や「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」にも寄与します。私は入行2年目に本件の主担当として関係者との協議や契約交渉などを担い、2022年11月にPF による貸付契約の調印に至りました。
本件の特色の一つが、世界銀行グループの国際金融公社(以下、IFC)と協調融資を行ったことです。JBICは2020年6月にIFCとの間で協力強化を目的とする業務協力協定を締結しており、本件は協定締結後初の協調融資案件となりました。IFCをはじめとする国際開発金融機関は、送金リスクや為替リスクが生じた場合に優先的に弁済を受けるといった慣例があります。一方でJBICはこれに当てはまりません。協調融資を行うことは望ましくも、このステータスの違いはJBICにとって懸念材料でした。そこで対応についてIFCと詳細に協議を重ね、互いに譲れる点を見出し、合意を経て協調融資が実現しました。
経験がまだ浅い私にとって連日の協議はタフなものでしたが、起こり得るケースを一つひとつ想定し議論したり、JBICの主張の背景も併せて伝えたりしながら、粘り強く互いの意見をすり合わせることに努めました。IFCとの協議でJBICは、民間金融機関なども含めたレンダー側を代表して交渉する立場でもあり、その責任も強く感じました。また本件はスポンサーである住友商事にとり、今後のエジプトでの事業拡大の基盤ともなり得る重要なプロジェクトです。日本企業による脱炭素化に向けた海外インフラ事業展開に貢献するという使命感も、協調融資に向けて根気強く交渉を続ける原動力になりました。
加えて心の支えとなったのは、本件がエジプトのエネルギー移行を後押しする案件である点です。私はJBICを志望した理由の一つとして、幼い頃から関心を寄せていたアフリカを中心とする国々の発展に貢献できる仕事がしたいとの思いがありました。本件は、エジプトというアフリカ大陸の国の、それも人々の暮らしに深く関わる電力のプロジェクトを支援するものであり、まさに入行時の思いにつながる案件です。折しも本件の検討を進めていた2022年は、ロシアのウクライナ侵攻やコロナ禍を受けエジプトのマクロ経済情勢が不安定な時期でした。この先、本プロジェクトが稼働しエジプトの経済活性化への一助となれば、エジプトの国際的な地位向上に間接的に貢献できることにもなります。その点でも本件の組成をやり遂げたいという強い思いがありました。エジプト政府関係者との対話では、JBICとしての懸念や依頼、思いを明確に伝え、エジプト政府側の協力を仰ぎました。
本件の契約交渉はオンラインを中心に行われ、実際に私がエジプトを訪問したのは契約締結のあと、トレーニーとして勤務していたドバイ駐在員事務所からエジプトに出張した折です。その際に、本プロジェクトの売電先となるエジプト送電公社とも面談を実施し、先方の「再生可能エネルギーはエジプトにとって重要な分野。円滑なオペレーションに向け努力したい」という言葉に、本件の意義の大きさを改めて感じました。
もう一つ印象に残っていることがあります。2023年4月、エジプトを訪問した岸田首相とエルシーシ・エジプト大統領との間で首脳会談が行われた際、本件についても言及があったことです。自分が担当した案件が国のトップの方にも認知をされ、両国が協力して取り組む意思を示していただけたことに有り難さをかみしめました。本件が日本政府の方針に沿い、また二国間の関係強化に資するものであることを実感する出来事でした。日本企業の海外展開を支援すると同時に、日本やプロジェクト実施国・地域も含めた公益を追求することもJBICの重要な使命であり、その両立を図れることに私自身も大きなやりがいを感じています。
日本政府は「インフラシステム海外展開戦略2025」において、カーボンニュートラル※3・脱炭素移行への支援として、ホスト国のエネルギー政策に適合する質の高いエネルギー・電力インフラに対する金融支援を実施する方針を掲げている。また日本政府は、温室効果ガスの低排出に向けた構造転換とアフリカ各国の異なる事情を反映したグリーン成長の実現を目的とする「アフリカ・グリーン成長イニシアティブ」の推進を表明している。こうした背景の下、JBICは2022年11月、住友商事等が出資するエジプト法人AMUNET WIND POWER COMPANY S.A.E.との間で、陸上風力発電事業を対象として、融資金額約281百万米ドル(JBIC分)を限度とするPFによる貸付契約を締結した。本プロジェクトは、AMUNETがエジプトで発電容量約500MWの陸上風力発電所を建設・所有・運営し、完工後25年間にわたりエジプト送電公社向けに売電するもの。本件は、日本企業が出資者として事業参画し、長期にわたり運営・管理に携わる海外インフラ事業を金融面から支援することで、日本の産業の国際競争力の維持・向上に貢献するものである。
※1 COP27(Conference of the Parties):2022年秋にエジプトで開かれた第27回気候変動枠組条約締約国会議。
※2 プロジェクトファイナンス(PF):プロジェクトに対する融資の返済原資をそのプロジェクトが生み出すキャッシュフローに限定する融資スキームのこと。
※3 カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとすること。