脱炭素化に伴い需要が増す銅資源の、チリにおける長期安定確保に寄与

チリ共和国アルケロス銅鉱山開発事業に対する融資

OUTLINE

近年の脱炭素化の潮流の中、銅は電気自動車や再生可能エネルギー設備・機器などに欠かせない金属として、世界的な需要の増加が見込まれています。こうした中、JBICは2024年4月、日鉄鉱業株式会社が出資するチリ法人CMAQとの間で、アルケロス銅鉱山開発事業を対象とする貸付契約を締結しました。日本にとって重要な資源である銅の長期安定確保に寄与する本件。入行1年目の総合職と業務職という同期コンビが、JBIC業務に必要な知識・姿勢などを一つひとつ学びながら契約調印まで辿り着いた道のりについて、担当した職員たちに聞きました。

PERSON

総合職
森﨑 桃子(2023年入行)
資源ファイナンス部門
鉱物資源部 第1ユニット
係員
業務職
村松 怜奈(2023年入行)
資源ファイナンス部門
鉱物資源部 第1ユニット
係員

PROJECT OUTLINE

JBICは2024年4月、チリ共和国(以下、チリ)法人Compañía Minera Arqueros S.A.(以下、CMAQ)との間で、融資金額248百万米ドル(JBIC分)を限度とする貸付契約を締結した。日鉄鉱業株式会社(以下、日鉄鉱業)及びチリ法人Fondo de Inversion Privado Talcunaが出資するCMAQが、チリのコキンボ州に位置するアルケロス銅鉱山を開発するために必要な資金を融資するものである。本融資は、株式会社みずほ銀行、株式会社三井住友銀行及び株式会社三菱UFJ銀行との協調融資により実施するもので、協調融資総額は355百万米ドル。2021年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画※」において、銅を含むベースメタルの自給率を2030年に80%以上とする目標に加え、国内製錬所における鉱石の調達リスク等を低減するための支援を強化し、強靱なサプライチェーンの構築に取り組む方針が掲げられている。本件は、こうした日本政府の政策に沿い、日本企業が出資参画する銅鉱山の開発及び長期安定的な銅精鉱の確保を通じて、銅製品のサプライチェーン全体の強靱化を支援するものである。

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世界的な需要増が見込まれる
銅の長期安定的確保に貢献

電気自動車や再生可能エネルギーの設備・機器などに欠かせない金属として、世界的な需要の増加が見込まれている銅。日本は銅地金の原料である銅精鉱の全量を海外からの輸入に依存しているため、長期安定的な銅資源の確保が不可欠である。2021年10月に閣議決定された「エネルギー基本計画」においても、銅を含むベースメタルの自給率を2030年に80%以上とする目標などが掲げられた。

こうした中、チリで2003年からアタカマ銅鉱山を操業するとともに、日比共同製錬株式会社の玉野製錬所で銅地金への製錬を行っている日鉄鉱業は、銅精鉱の自社鉱山比率を向上させることを目指し、同社が80%出資するCMAQによってアルケロス銅鉱山開発事業(以下、本プロジェクト)を進めていた。2023年4月、日鉄鉱業からJBICに本プロジェクトへの融資支援の相談が持ちかけられ、検討がスタートした。

「本件は、アルケロス銅鉱山で生産される銅精鉱全量の引取権を日鉄鉱業が保有していることから、日本にとって重要な資源である銅の長期安定確保につながります。チリで生産された銅精鉱が、日鉄鉱業、国内製錬所、銅製品メーカーへと流れていくサプライチェーンについて理解を深める中で、日本にとっての意義の大きさに気付かされました」(総合職 森﨑)

同年9月、森﨑は本プロジェクトの環境実査のために融資担当者としてチリに出張。鉱山や選鉱プラント、堆積場などの予定地を視察し、希少な動植物の生息地やその移転・保護方針、周辺コミュニティとの関係性などをCMAQに確認した。

「現地では、日鉄鉱業からCMAQに派遣されている現場の方々からお話を伺う機会が多くありました。現在本プロジェクトで活躍されている日鉄鉱業の方々が、長年のキャリアを通して東京本社や全国の鉱業所などで知見を積み重ねてきていること、また、アタカマ銅鉱山で培われた高度な技術が本プロジェクトに継承されていることなどを知る中で、こうした人や技術の流れが、今後も途切れさせてはならない貴重なものだと実感。日鉄鉱業の事業戦略支援というもう一つの意義の大切さを、肌で感じることができました」(総合職 森﨑)

入行1年目の同期コンビが
先輩の指導の下で担当

チリ出張の手配事務をはじめ、行内決裁・貸出に係るシステム登録や関連部署との調整、本人確認手続きなどを行い、森﨑をサポートしたのが業務職の村松だ。森﨑と村松はともに、2023年に入行したばかりの新入職員。トレーナーによる指導の下、右も左も分からない同期2人が二人三脚で進行していったのも本件の特徴である。

「一連の手順やシステムの使い方、行内ルールの調べ方なども分からず、全てが手探り状態。トレーナーの先輩が『森﨑さんに〇〇を伝えておくと、あとで助かるはずだよ』などと丁寧に教えてくださったので、前もって過去事例やマニュアルを読み込み、森﨑さんに共有するように努めました。業務職が総合職の担当者をフォローしながら、前広に情報共有やタスクコントロールをすることが重要なのだと学びました」(業務職 村松)

融資案件は、審査・環境審査・融資契約(以下、LA)交渉などのプロセスを経て、行内決裁や契約調印に至る。これらの各プロセスにおいて総合職の担当者は、自身の手もとで一次作業を行った上で課内・部内の確認を取り、必要に応じて行内外の関係者とも連携しながら案件を前に進めていく。

「LA交渉時、ある条項について自分では深く考えず、弁護士の判断にただ従って課内確認に回してしまったことがありました。そのとき、『LAに記載されている事柄は、担当者として説明できるように自身で理解・咀嚼してから課内で相談する必要がある』とトレーナーの先輩からご指導いただき、担当者としてプロジェクトをハンドリングしていく責任と自覚の大切さに気付かされました。その条項があることで顧客とJBICの間にどのような権利義務関係が生まれるのかを紐解いていくなど、時間がかかってもLAを丁寧に読み込む姿勢が身につきました」(総合職 森﨑)

総合職と業務職が連携し
契約調印まで無事に遂行

日鉄鉱業を介してチリのCMAQとLA交渉を重ねていく中で、ときには契約内容やスケジュールが変更になるケースもあった。こうした場面で大切だったのが、森﨑と村松による密な連携だったという。

「プロジェクトの全体を俯瞰しながら顧客や関係部署との調整を行う総合職と、既往案件や過去事例の情報収集、行内ルールやシステムへの精通、スケジュール管理などを通してサポートする業務職では、一つひとつの作業に対する目線が全く異なります。森﨑さんとは、お互いの目線で問題点や不安を伝え合いながら進められたので、とても心強かったです」(業務職 村松)

こうして本件は、業務決定会議での行内決裁を経て、2024年4月にCMAQとの間で融資契約が締結された。

「無事に融資が実行され、現地では建設がスタートしました。実際に銅精鉱の生産が始まるのは数年先で、その頃には私は異動しているかもしれないと考えると少し寂しくも思います。しかし本件では、数十年単位で進められる資源開発において重要な、人や技術の流れに触れることができました。今後もその流れがつながっていき、将来的に新たな銅鉱山開発などに活かされることを願っています」(総合職 森﨑)

PROJECT FLOW

日鉄鉱業向け融資

2001年、日鉄鉱業との間で、アタカマ銅鉱山開発事業に必要な資金の融資契約を締結。

検討開始

2023年4月、日鉄鉱業からアルケロス銅鉱山開発事業に対する融資支援の要請を受け、検討をスタート。

審査・環境審査

2023年5月、環境審査のカテゴリ分類が完了。同年8月、審査部との協議を開始。

環境実査

2023年9月、チリ・コキンボ州を訪れて、希少植物の生息地域、鉱山・選鉱プラント・堆積場周辺などを実査。

融資契約調印

2024年4月、業務決定会議で融資を決定し、CMAQとの間で融資契約を調印。

高知県出張

2024年7月、本融資の保証人である日鉄鉱業の鳥形山鉱業所の操業状況を視察し、事業環境などについて意見交換。

案件管理

融資契約の締結以降、プロジェクトの進捗のモニタリング、貸出、関係者との情報共有などを継続中。

※ エネルギー基本計画:2021年10月22日に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、銅を含むベースメタルの自給率を2030年に80%以上(2018年度50.1%)とする目標や、国内製錬所における鉱石の調達リスク等を低減するための支援を強化し、強靱なサプライチェーン構築に取り組む日本政府の方針が示された。

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