年平均16%程度の伸び率で成長すると予想されている世界の洋上風力発電市場。JBICは2018年11月、日本企業が出資する英国法人MOWELとの間で、英国最大級となるMoray East洋上風力発電事業を対象としてプロジェクトファイナンスによる貸付契約を締結しました。日本企業が今後この成長市場に参入していくため、最先端市場の欧州に進出してノウハウを取得することを目的とした本件。その契約承諾までの道のりや、日本企業の国際競争力にもたらした影響について、本件を担当した職員たちに聞きました。
欧州の洋上風力発電市場は2010年以降、急速な成長を遂げており、そのシェアは世界市場の80%以上となっている。国別導入状況では、英国がトップ(43%)となっており、ドイツ(34%)、デンマーク(8%)がそれに続く。今後も固定買取価格水準の下落を背景に欧州各国が開発計画を積み増し、さらに台湾・米国など新市場の開拓が見込まれることから、世界の洋上風力発電市場は年平均16%程度の伸び率で成長することが予想されている。
「各国企業間での事業権獲得競争も激化していますが、日本企業は大規模洋上風力の商業運転の実績がほとんどなく、事業参画は容易ではありません。そこで、洋上風力発電の最先端市場である欧州に進出してノウハウを取得することで、欧州各国のプロジェクトに参画する、あるいは新市場として期待される米国や台湾、日本などでの展開に備えたいと考えているのです。その意味で、本件における日本企業の事業権獲得をJBICが支援することには大きな期待が寄せられていました」(調査役 平本)
英国政府は2008年に気候変動法を制定し、温室効果ガス排出量を2050年までに1990年対比で80%削減する目標を掲げている。また、2013年に制定したエネルギー法の下で再生可能エネルギー助成制度(以下、CfD)
を導入することにより、閉鎖する既存発電所の代替として風力・太陽光などの低炭素エネルギー電源の拡大に努めている。こうした中、JBICは2018年11月、三菱商事株式会社、関西電力株式会社及び三菱UFJリース株式会社などが出資する英国法人Moray Offshore Windfarm (East) Limited(以下、MOWEL)との間で、同国Moray East洋上風力発電事業を対象として、融資金額約743百万ポンド(JBIC分)を限度とするプロジェクトファイナンス による貸付契約を締結した。本融資は、JBICが2018年7月に創設した「質高インフラ環境成長ファシリティ」 の欧州における第1号案件であり、欧州洋上風力発電市場における日本企業の国際競争力の向上・維持や英国政府が掲げる温室効果ガス排出量削減に貢献するものである。本件のポイントの一つは、通常のPFにはない技術リスクを取ったことにある。総発電容量950MWと英国最大級の洋上風力発電であり、そこで使用する風力タービンには、三菱重工がデンマークのVestasと合弁で設立したMHI Vestasの最新式世界最大出力タービン(9.5MW)100基が使用されることになっていた。通常のPFでは既に商業運転の実績のある設備を使うが、本件の風力タービンは最新式であるがゆえに、まだ運転実績がなかった。
「われわれは技術面のリスクを早期に見極めるために、MHI Vestasの現地工場に視察に赴いて慎重な実査を行いました。その末に、この技術リスクは取れると判断したのです」(副調査役 佐々木)
もう一つのポイントは、スポンサーとの融資交渉であった。近年、欧州では洋上風力発電事業の大型化が進みつつあり、それに伴うコスト増加によって事業者は長期・巨額の資金調達の必要性に迫られている。本件も世界有数の規模であり、資金ニーズも長期・巨額となることから、JBICによる金融面からの支援が強く望まれていた。
「JBICとしては何としても事業者の期待に応えたいという思いで交渉に臨みましたが、欧州サイドのメインスポンサーであるスペインのEDP Renovaveis社(以下、EDPR)とJBICはこれまで協業したことがなかったため、両者間でリスクテイクに対する考え方の相違がありました。欧州の洋上風力市場ではスポンサーの立場が極めて強いこともあり、融資交渉は難航しました」(調査役 平本)
「EDPRからは特に政策金融機関として要求する必要のあるポイントに対する合理的な説明が求められたため、既往案件での取扱い如何にかかわらず、イシューによってはゼロベースで検討することも意識し、先方の要望には真摯に対応するようにしました。ときには、JBICのプレゼンスが比較的高いアジア地域のコンベンショナルなIPP(独立系発電事業者)案件での融資条件とは異なる新しい仕組みや一歩踏み込んだリスクテイクにも取り組みました。こうした姿勢でEDPRとの間で約1年間、粘り強く交渉を重ねた末に、ようやく良好な関係を構築するに至りました。今後、日本企業が洋上風力発電事業への参画・関与を一層進めるには海外大手ユーティリティとの連携が必須となる中、JBICが本件を通じてEDPRと信頼関係を築いたことは大きな意味があったといえます」(副調査役 佐々木)
こうして本件は、2018年11月に融資契約を締結。世界的に事業権獲得競争が激化している洋上風発電市場に、日本企業が参入していくための道を切り開くことに成功した。
「最終的には、EDPRから『JBICは非常にリーズナブルで協働しやすい』という評価をいただきました。融資後の反響も大きく、現在、本件に関するプレスリリースを見た商社や海外のディベロッパーなどから、世界各国の洋上風力案件が数多く持ち込まれている状態です」(調査役 平本)
「商社に続いて、電力・ユーティリティ企業も洋上風力発電のノウハウ取得に向けて市場参入し始めており、本件がそうした流れを作る上で一つのメルクマールになったといえるでしょう」(副調査役 佐々木)
※1 再生可能エネルギー助成制度(CfD):英国政府が100%出資するLow Carbon Contracts Companyと発電事業者の間で締結するContracts for Difference契約に基づき、英国政府が決定した基準価格と電力市場指標価格との差額調整を実施することにより、発電事業者の収入を長期間にわたり保証する制度。
※2 プロジェクトファイナンス(PF):プロジェクトに対する融資の返済原資をそのプロジェクトが生み出すキャッシュフローに限定する融資スキームのこと。
※3 質高インフラ環境成長ファシリティ:再生可能エネルギー分野を含め、地球環境保全目的に資するインフラ整備を幅広く支援することを目的とする制度。