国際社会は今、進みゆく「分断」のただ中にあります。口シアによるウクライナ侵攻が続く一方で、中東での紛争も絶えません。また、国際物流の要衝であるスエズ運河・パナマ運河の途絶問題、世界で深まる経済安全保障上の課題や地政学的な対立など、地球上の至るところで分断が生じている状況です。不安定な国際情勢の下、これまでのG7(主要7か国)を中心とした先進国主導の国際秩序は揺らぎ、一方でグローバルサウスと称される国々の存在感が増し、多極化が進んでいます。私たちが信じていたリベラルな国際秩序や市場経済に基づくグローバリゼーションといった、既存の価値観が根本から問われている時代でもあります。
グローバリゼーションをてこに発展してきた日本経済も、大きな環境変化に直面しています。グローバルに張り巡らせたサプライチェーンが寸断され、再構築の必要に迫られる企業も少なくありません。日本にとって重要なエネルギー資源の確保も、今後は一層困難になることが予想されます。また一方で、気候変動問題への対処は引き続き世界共通の重要課題であり、日本の産業界にとっても脱炭素は喫緊の課題です。カーボンニュートラルと経済成長の両立を実現する、革新的な技術による課題解決が求められています。
分断が進む世界で、いかにして人と人、企業と企業とを結びつけ、国際社会が直面する課題を解決に導いていけるか。国境を越えた金融業務を行う日本で唯一の政策金融機関であるJBICには、この大きな役割を果たすことが今求められているのです。
※ カーボンニュートラル:温室効果ガスの排出量を全体としてゼロとすること。
世界がこうした様々なチャレンジに直面する中で、日本経済が持続的に成長するためには、経済安全保障の確保とサプライチェーンの強靭化、気候変動問題など地球規模の課題解決への貢献、デジタル技術などを駆使した変革への挑戦といった、グローバルな視野に立った取組みが必要です。日本と世界、官と民をつなぐ政策金融機関として、JBICの役割は、独自のグローバルネットワークや多様な金融ツールを駆使して日本企業の取組みをサポートするとともに、様々な課題の解決に日本企業とともに貢献していくことです。
JBICは第5期中期経営計画(2024~2026年度)において、重点取組課題に「持続可能な未来の実現」、「我が国産業の強靭化と創造的変革の支援」、「戦略的な国際金融機能の発揮による独自のソリューションの提供」、「価値創造に向けた組織基盤の強化・改革」の4つを掲げ、それぞれの課題への対処や達成に向けた取組みを強力に推進しています。そして、本計画を遂行するためのテーマを、"Navigate toward and Co-create a Valuable Future"としました。課題の解決に向けてJBICが先頭に立って道を示し、Navigate(先導)する。その道のりで様々なステークホルダーを巻き込みCo-create(共創)する。さらに、JBICとして付加価値を創出しながら、ともに価値ある未来を実現していく。そうした決意をこのテーマに込めています。
世界の課題解決を「先導」し、未来を「共に創る」というJBICの役割が発揮された案件の例に、日本企業が台湾で実施する洋上風力発電プロジェクトへの支援があります。
JBICは本件で融資と保証に加えて出資も行い、多様な金融手段を総動員してプロジェクトを実現に導きました。またファイナンスは日本のみならず、豪州、カナダ、英国、べルギー、ノルウェーなどの開発金融機関·輸出信用機関が一体となって供与しました。これほどの規模の連携は過去にもほぼ例がありません。このような形で国際機関を取りまとめ、JBICが先頭に立ってプロジェクトを実現へとリードすることが、今後ますます重要になると考えています。
もう一つの事例として、日本の電力会社が参画するドイツでの地熱発電プロジェクトへの支援も、JBIC独自の機能と役割が発揮された案件です。これは、従来の地熱発電よりも効率的に熱を取り出せる「クローズドループ地熱利用技術」という革新的なテクノロジーが、世界で初めて商用化されるプロジェクトです。民間の金融機関だけではリスクを取り切れない未商用化技術の案件に対し、JBICが先導して「特別業務」の適用により技術リスクを取りました。また、EUとの太いパイプを通じて欧州の国際機関とも連携し案件を組成しました。このようにJBICは、蓄積した知見やリレーションを活かし、リスクの深掘りを通じて、新しい技術やビジネスモデルを開花させる「先導役」を果たしていきます。
※ 特別業務:JBICのリスクテイク機能を強化すべく2016年に法改正を踏まえて開始した、個別案件ごとに確実な償還が見込めない案件への融資を可能とする特別な業務のこと。海外インフラ事業や新技術・ビジネスモデル、スタートアップ企業向けの支援などが対象。
2024年のパリオリンピック・パラリンピックでは、日本代表選手の活躍が光りました。様々な困難を乗り越えて4年に1度の大舞台で躍動する選手たちの姿に、胸を熱くし勇気を得た人も多いのではないでしょうか。国際ビジネスの最前線で日本代表として課題に立ち向かうJBICの仕事も、オリンピアンに通じるものがあると私は感じます。日本企業や日本経済にとって重要なことは何かを常に考え、各国の関係者と協議を重ね、一つのゴールを目指す。それは紛れもない真剣勝負の場です。
スポーツの世界ではよく「練習は裏切らない」と言いますが、同じように「仕事は裏切らない」と私は思っています。周りの人たちの意見や助言に耳を傾けながら、より良い方法を懸命に考え抜き、目の前の仕事に全力で取り組む、その経験の繰り返しが、必ず結果となって自分に返ってくるからです。
世界の課題解決に向けた使命をJBICが果たしていく上では、職員一人ひとりにも「先導」と「共創」の力が求められます。そしてその前提として、公共性と国際性、そして金融に関する専門性を高い水準で備えることも必要です。JBICでは、これらの力を着実に身につけていける独自の研修体系「JBIC Academia」を設け、海外職務経験、ファイナンスや言語などの知見、ビジネス・マネジメントスキルなどを幅広く習得できる多様な研修を設定しています。また、オフィスワークとテレワークを組み合わせたハイブリッドワークをはじめ、職員がそれぞれの価値観に応じた働き方で能力を最大限に発揮できるようにするための制度や環境を整備しています。
そして何より、JBICでは各職員が若い年次から裁量と責任を持った仕事を担い、先輩や上司のサポートを受けながら、現場での実践を通して知識やスキルを高めることができます。最初は無我夢中の日々が続きますし、高い壁を前に苦悩することもあるでしょう。それでも諦めず全力でぶつかる経験を重ねた先に、自らの成長と、「仕事は裏切らない」を必ずや実感するはずです。
これからJBICに入行する皆さんには、グローバルな舞台でリーダーシップを発揮し、世界の中で日本が存在感を高めていく一翼を担うことを期待します。変化の激しい不確実な時代だからこそ、従来の価値観にとらわれず、新しいやり方に果敢に挑む姿勢が大切です。価値ある未来の実現に向けて、「先導」と「共創」の役割を、ともに担っていく皆さんの入行をお待ちしています。